トック ブランシュ
芝公園のそばの小さなレストラン
トックブランシュは、増上寺の、公園を挟んだ斜向かいにひっそり佇む。家庭的で、温もりのあるビストロ、可愛い小さなレストラン。気兼ねしない、カジュアルな雰囲気だ。エスコフィエ的なクラシックフレンチが味わえるお店。
すぐ近くには高級フレンチのクレッセントや、ベーカリーレストランのル・パン・コティディアンがあり、有名店が軒並み名を連ねる地域にもかかわらず、この港区で35年間、ブレることなく日々営業中。
来年で創業三十五周年
早朝、シェフが自転車をこいでお店へ、朝一番で厨房に入る。娘さん達も各々仕込みを始め、木漏れ日の中、静かに1日が始まる。そうこうしている内にランチタイムの営業がやって来て、浜松町、芝公園は、オフィス街という事もありビジネスの方たちでお店は賑わう、外資系企業の方、観光の方、外国の皆々さんもよく顔を出すとのこと。
中間時間に賄いをすませ、家族会議をおこない、課題について話しあったり、レシピを決めたりした後、自由時間。
そうこうしている内にディナータイムの営業がやって来て、大切な方との会食や、記念日など、お店は暖かい空気に満ちて来る「お店をやっていて良かった!」と思う瞬間、幸せな気持ちで1日の営業を終える。そんな毎日も、来年で35周年を迎える。本当におめでとうございます。
絶好のロケーションといぶし銀
お店のそばに徳川家代々とゆかりの深い増上寺。山号は三縁山。三門などは国の重要文化財に指定されている。増上寺の境内はイベント会場にもよく使われるが、広大な芝公園の緑のおかげもあってか、お店の周りは静かで落ち着いている。
店内は木目とレンガ基調。経年劣化で生じたものの痕跡が渋みと奥深さを醸す。古いとはいえ清潔感はあるのでこまめに手を入れていると容易に想像がつく、居心地がいい。ちなみに、黄色いソファーの背もたれの腰に当たる感じが好きだ。
前菜 オードブル
サーモンやホタテなど自家燻製や、フォアグラのテリーヌ、コンフィ、ゼリー寄せ、チーズを使った料理。サラダにはビネグレッド。キャロットラペ。クラシックな料理が揃い踏み。一品一品手の掛かった料理にシェフの経験がものを言う。
余白を意識したりのモダンも良いが、丁寧に盛り付けられたオードブル。トラディショナルなフレンチを楽しむはじめの一歩。
スープ
クラシックフレンチの肝は、ソースであると思う。私がシェフの拘りを強く感じる部分、それはソースと、スープだ。
素材の味を第一に、旬の素材を炒めてから、ブイヨンと一緒にコトコト煮て、サラサラになるまで馬毛の濾し器にかける。思い切りシンプルに仕上げる。濃くもなく薄くもない、口の中に素材の旨味が広がり、思わずホッとする。
魚料理
魚は、付き合いの長い業者さんに、時期の魚、新鮮な魚を築地から調達してもらっているそうだ。
火入れは丁寧に、皮目はパリッと、身は柔らかく。例えば、油ののった魚には酸味のあるソース、淡白な魚にはクリームなどの繊細なソースを。
肉料理
煮込み、焼き、厳選した素材を丁寧に調理して、しっかり出汁を取った多種多様なソースから、合った物をかけていただく、
古き良きフランスの時代から引き継がれた、先人の知恵が詰まった肉料理、絶対的に美味しいと思う。肩肘張らず思う存分味わいたい。クラシックなフランス料理は、旨さと引き換えにバターや、生クリームなどを多様する為、重いのが難点であるが、トックブランシュでは、創業当時から、日本人の胃袋を考えて、ソースのつなぎに小麦粉を使わない工夫(その分、素材を煮詰めるのに手をかけている)など、角の立った大味ではなく、旨味を引き出し、優しい丸みのある味付けを心がけているそうだ。
デザート
コンポート、パルフェなどのクラシックなもの、馴染みが深いシンプルなアイスクリームなど、当然全て手作り。
フルーツは新鮮な旬のものをいただける。シンプルで可愛い盛り付けのデザートたち。
信念を曲げずに貫く
名店、巨匠、華やか日本のフランス料理界から、少し離れた位置で、トックブランシュは地道に営業を続けている。
シェフは18歳でフレンチの世界に入り、60代になった今も、信念を持ち、精魂込めて料理を作る。
個人的に、余計なお世話なのだが、もっと宣伝したり、アピールしてくれば良かったのに、と感じている。しかしシェフはお構いなし、山あり谷ありの日々を、家族と料理の事を一番に考えて、毎日を楽しく過ごす。おそらくステータスや華やかさは蚊帳の外なのだ。。そこが、このレスランに来ると落ち着く理由なのだと思う。